世界タロットリーディング協会 監修
タロットには大きく分けて「マルセイユ版」と「ウェイト版」というふたつの系統があります。デッキ選びで最初に出会う分かれ道でありながら、違いを正確に説明した日本語の資料は多くありません。本記事では、両系統の歴史・構造・絵柄の違いを整理し、「結局どちらを選べばいいのか」まで踏み込んで解説します。
タロットの二大系統
現在流通するタロットの大半は、マルセイユ系かウェイト系のどちらかに属します。どちらも「大アルカナ22枚+小アルカナ56枚=78枚」という構成は同じ。違うのは絵柄の思想と、それに伴う読み方の流儀です。
まず歴史の縦軸を押さえましょう。タロット自体は15世紀イタリアの手描きの遊戯札(ヴィスコンティ・スフォルツァ家のカードなど)に始まり、木版印刷の普及とともにフランスで大量生産されるようになります。その定番図案がマルセイユ版。そして20世紀初頭、イギリスで「占うための再設計」として生まれたのがウェイト版です。
マルセイユ版とは ― 17世紀からの古典
マルセイユ版(Tarot de Marseille)は、17〜18世紀に南フランス・マルセイユ周辺の工房で量産された木版タロットの伝統図案の総称です。特定の作者による単一のデッキではなく、職人たちが受け継いだ「型」であり、ニコラ・コンヴェル版(1760年頃)など複数の有名版が存在します。
特徴は、原色に近い赤・青・黄の力強い彩色と、様式化された素朴な線。大アルカナの図像は中世〜ルネサンスの寓意画の伝統を色濃く残し、ヨーロッパの占術文化の「原点」に触れられる系統です。18世紀末のエッテイラやクール・ド・ジェブランによるタロット神秘主義の研究も、マルセイユ版を土台に行われました。
ウェイト版とは ― 1909年の革新
ウェイト版(ライダー・ウェイト・スミス版)は、1909年にロンドンで刊行された「占うために設計された」デッキです。神秘思想研究家A.E.ウェイトが構想し、画家パメラ・コールマン・スミスが全78枚を描きました。誕生の経緯は「ライダー・ウェイト版タロット完全ガイド」で詳述しています。
最大の革新は小アルカナ56枚への情景画の導入。この一点により学習のハードルが劇的に下がり、20世紀以降の世界標準となりました。
5つの違いを一覧で比較
| 比較項目 | マルセイユ版 | ウェイト版 |
|---|---|---|
| 成立 | 17〜18世紀・フランス(職人の伝統図案) | 1909年・イギリス(作者による設計) |
| 小アルカナ | 数札は記号的図案(ピップ) | 全56枚が情景画 |
| 8番と11番 | 8=正義、11=力 | 8=力、11=正義 |
| 絵の様式 | 木版由来の素朴で力強い線と原色 | 物語性のある挿絵、豊かな中間色 |
| 学習資料 | 中〜上級者向けが中心 | 入門書・講座・アプリが圧倒的に豊富 |
最大の違い ― 小アルカナの絵柄
両系統の分水嶺は小アルカナです。
マルセイユ版の数札は、たとえば「杯の5」なら5つの杯が装飾模様とともに並ぶだけ。意味は数札の数理(数秘)とスートの性質から導きます。抽象的であるがゆえに、読み手の体系立った知識と自由な連想が試されます。
ウェイト版の「杯の5」は、こぼれた3つの杯を見つめてうなだれる人物の絵。喪失の悲しみと、背後に残る2つの杯=希望が、一枚の絵として描かれています。知識がなくても絵が意味へ導いてくれます。
言い換えると――マルセイユ版は「読み手が意味を組み立てる」系統、ウェイト版は「絵が意味を語りかけてくる」系統。どちらが優れているかではなく、思想の違いです。
「力」と「正義」 ― 番号の入れ替わり
大アルカナの8番と11番は、系統によって入れ替わります。マルセイユ版では8=正義、11=力。ウェイト版では8=力、11=正義です。これはウェイトが所属した黄金の夜明け団の教義で、大アルカナと黄道十二宮の対応(力=獅子座、正義=天秤座)を星座の並び順に揃えるために変更されたと伝えられます。
実用上は、手元のデッキの8番を見れば系統が判別できる便利な目印です。「力」ならウェイト系、「正義」ならマルセイユ系。デッキ購入前のチェックポイントとして覚えておきましょう。
どちらを選ぶべきか
ウェイト版が向いている人
初めてタロットに触れる人、独学の人、直感的に読みたい人。絵が学習を助け、日本語の解説資料が豊富です。市販の教科書・講座の大半がウェイト版準拠のため、学びの選択肢が最も広い系統です。
マルセイユ版が向いている人
タロットの歴史や数理体系に惹かれる人、二組目を探す経験者。数札を数秘とスートで読む訓練は、リーディングの土台を鍛え直してくれます。ヨーロッパの伝統に触れる知的な愉しみも大きな魅力です。
協会のおすすめ
迷ったら一組目はウェイト版(または準拠デッキ)、二組目にマルセイユ版という順路をおすすめします。ウェイト版で78枚の物語を体に入れてからマルセイユ版に進むと、両系統の違いそのものが深い学びになります。具体的な製品選びは「タロットデッキの選び方」をご覧ください。
補足 ― 第三の系統「トート版」
二大系統のほかに、トート版(Thoth Tarot)という第三の潮流があります。神秘思想家アレイスター・クロウリーが構想し、画家フリーダ・ハリスが描いたデッキで、制作は1938〜1943年頃、刊行は1969年。抽象絵画のような画面と独自の術語体系を持つ、上級者向けの奥深い系統です。まずは二大系統のどちらかで土台を作ってから挑むことをおすすめします。
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