世界タロットリーディング協会 監修
世界で最も使われているタロットカード――それがライダー・ウェイト版(ウェイト・スミス版)です。1909年にロンドンで生まれたこの78枚は、なぜ100年以上たった今も「タロットの世界標準」であり続けるのか。本記事では、誕生の歴史から絵柄に込められた思想、マルセイユ版との違い、そして自分に合う一組の選び方まで、専門的な内容をできるだけ平易に解説します。
ライダー・ウェイト版タロットとは
ライダー・ウェイト版(Rider-Waite Tarot)は、1909年にイギリスの出版社ライダー社(William Rider & Son)から刊行されたタロットデッキです。神秘思想の研究家アーサー・エドワード・ウェイトが構想し、画家パメラ・コールマン・スミスが78枚すべての絵を描きました。近年は画家の名前を含めて「ウェイト・スミス版」「ライダー・ウェイト・スミス版(RWS)」とも呼ばれます。
現在、世界で流通するタロットの大半はこのデッキそのもの、あるいはその絵柄・構成を踏襲した「ウェイト版準拠」のデッキです。タロット教室や書籍の解説も多くがウェイト版を前提としており、最初の一組にウェイト版系統を選んでおくと、その後どんな教材ともかみ合う――これが「世界標準」と呼ばれる実際的な理由です。
「ライダー」は出版社名、「ウェイト」は構想者、「スミス」は絵を描いた画家の名前。呼び方が違っても、指しているデッキは同じ1909年生まれの78枚です。
誕生の歴史 ― 1909年、ロンドン
19世紀末から20世紀初頭のイギリスでは、西洋神秘思想の研究が知識人の間で盛んでした。その中心のひとつが、魔術結社「黄金の夜明け団(Hermetic Order of the Golden Dawn)」です。タロットはこの結社の学習体系に深く組み込まれており、カバラ・占星術・数秘といった諸体系との対応づけが研究されていました。
ウェイトもスミスもこの結社に所属した経験を持ちます。ウェイトは、当時入手できたタロット(主にフランスのマルセイユ系)が「絵柄として占いの本質を十分に表現できていない」と考え、象徴体系を再設計した新しいタロットの制作を企画しました。こうして1909年、ロンドンのライダー社から新しい78枚が世に出ます。翌々年にはウェイト自身による解説書『The Pictorial Key to the Tarot(タロット図解の鍵)』も刊行され、デッキと解説書が揃った「学べるタロット」として広まっていきました。
ウェイトとスミス ― 二人の制作者
アーサー・エドワード・ウェイト(1857–1942)
アメリカ生まれ、イギリス育ちの神秘思想研究家。錬金術・カバラ・薔薇十字思想などに関する多数の著作を残した学究肌の人物です。ウェイト版の設計思想──どのカードに何を象徴させるかは、彼の研究の結晶です。
パメラ・コールマン・スミス(1878–1951)
ロンドン生まれの画家・イラストレーター。愛称は「ピクシー」。舞台美術や書籍の挿絵で活躍し、ウェイトの依頼を受けて78枚すべての原画をわずか数ヶ月で描き上げたと伝えられます。とりわけ小アルカナ56枚の情景表現は彼女の創造によるところが大きく、近年はその功績が再評価され、「ウェイト・スミス版」の呼称が定着しつつあります。各カードの隅に残る「PCS」のモノグラムは彼女のサインです。
革新① 小アルカナ56枚すべてに「絵」を与えた
ウェイト版最大の発明は、小アルカナ(数札)に物語のある情景画を与えたことです。
それまで主流だったマルセイユ版では、小アルカナの数札は「カップが5個並んでいる」といった記号的な図案で、意味は暗記に頼るしかありませんでした。ウェイト版では、たとえば「カップの5」は倒れた3つの杯を見つめてうなだれる人物として描かれます。喪失と、まだ残された2つの杯──絵を見るだけで「失意の中にも希望が残る」という意味が直感的に伝わります。
この改革によって、タロットは「暗記した意味を思い出す道具」から「絵を読み、物語を紡ぐ道具」へと変わりました。初心者がウェイト版から始めるべき最大の理由がここにあります。
| 項目 | マルセイユ版(従来) | ウェイト版(1909) |
|---|---|---|
| 小アルカナの絵柄 | 記号的(スートの数を図案化) | 全56枚が情景画 |
| 意味の学び方 | 暗記が中心 | 絵から直感的に読める |
| 「力」と「正義」 | 8=正義、11=力 | 8=力、11=正義 |
| 解説書 | 後世の研究に依存 | 制作者自身の解説書が現存 |
革新② 「力」と「正義」の入れ替え
ウェイト版では、大アルカナの8番が「力」、11番が「正義」です。マルセイユ版では逆(8=正義、11=力)でした。これは黄金の夜明け団の教義で、大アルカナを占星術の12星座・惑星に対応させる際、「力=獅子座」「正義=天秤座」の並び順を黄道の順序と一致させるために行われた変更とされています。
現代のデッキがどちらの番号を採るかは系統の目印になります。手元のデッキの8番が「力」ならウェイト系、「正義」ならマルセイユ系──選ぶときの簡単な見分け方として覚えておくと便利です。詳しくは「ウェイト版とマルセイユ版の違い」で解説しています。
絵柄に込められた象徴の読み方
ウェイト版の絵には、偶然の要素がほとんどありません。色・持ち物・背景・視線の向き――そのすべてが意味を担っています。代表的な約束事をいくつか挙げます。
色の約束事
白は純粋・始まり(愚者の内衣・太陽の白馬)、赤は情熱と行動(魔術師の外套)、黄色は意識と知性(多くのカードの背景空)、青・水色は感情と無意識(女教皇の衣・流れる水)。同じ人物でも身につける色で「どの力がはたらいているか」が描き分けられます。
持ち物と姿勢
魔術師が天に掲げる杖と机上の4つの道具(杖・杯・剣・金貨)は四大元素の支配を、女教皇が膝に置く巻物「TORA」は隠された知恵を表します。人物が正面を向くか、横顔か、後ろ姿かも、意識の方向を読む手がかりです。
背景の風景
遠くの山は越えるべき課題、流れる川は感情の動き、壁は守りと停滞。たとえば「カップの8」で人物が杯を残して山へ向かう後ろ姿は、達成の先にある「次の探求」を物語ります。
象徴は「単語」、カード全体は「文章」です。1枚のカードの意味を丸暗記するより、絵の中の象徴を組み合わせて自分の言葉で文章にする練習が、上達の最短路です。大アルカナ22枚の意味は「大アルカナ22枚の意味一覧」にまとめています。
版の変遷と現代の復刻
1909年の初版から、ウェイト版は何度も刷りを重ね、線の太さや彩色の異なる複数の版が存在します。コレクターの間では初期の版が珍重される一方、一般の実用には現代の復刻版で十分です。むしろ現代版は紙質・箱・印刷の均質性で優れています。
復刻版を選ぶ際の観点は次の3つです。
1. 原画の再現度
線の鮮明さと彩色のトーン。初期版の風合いを再現したものから、彩度を上げた現代的なものまで幅があります。
2. 日本語資料の有無
ウェイトの原書は英語です。日本語の解説書・ガイドブックが付属するかどうかは、学びやすさを大きく左右します。
3. サイズと紙質
標準サイズ(およそ70×120mm)は情報量と扱いやすさのバランス型。手の小さい方はポケットサイズという選択もあります。シャッフルのしやすさは紙の厚みとコーティングで決まります。
FROM OUR PRESS
1909年の絵柄を、現代の書籍品質で。
新日本総合出版は、ウェイト版の系譜に連なるクラシックデッキを複数刊行しています。「THE STANDARD WAITE TAROT 1909」をはじめ、日本語表記に対応した「日本語版タロットカード ウェイト版」、携行に適した小型判「クラシックタロット」など、全86タイトルからお選びいただけます。
ウェイト版を選ぶときのポイント
まとめとして、最初の一組を選ぶ手順を整理します。
手順1:系統を確認する。8番が「力(Strength)」ならウェイト系です。解説書や教室との相性を考えるなら、まずウェイト系を推奨します。
手順2:絵柄の再現度と好みで選ぶ。毎日手に取る道具です。原画准拠の落ち着いたトーンか、現代的な発色か、直感で「好き」と思えるものを。
手順3:日本語解説書付きを選ぶ。特に独学の場合、日本語の解説が付属するかどうかで学習速度が変わります。
より詳しい選び方は「タロットデッキの選び方」を、購入後の最初の一歩は「タロットの始め方」をご覧ください。
